ユトリロとヴァラドンー母と子の物語 スュザンヌ・ヴァラドン生誕150年



  ユトリロとお母さんであるスュザンヌ・ヴァラドンの展覧会が京都伊勢丹「えき」美術館で行われています。
 
 私は昔からどうもユトリロの絵になんとなく惹かれてしまって、近くに来るたびに観に行っていたのですが、今回は、ポスターに写されたお母さんの絵のほうに惹かれました。なんて美しい色合いのエネルギーのある絵だろうと思い、展覧会が開かれてすぐに出かけました。


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 ユトリロのお母さんは私生児として生まれ、18歳でユトリロをやはり私生児として生み、モデルを経て画家となり、仕事と恋に忙しく、子育てはもっぱら祖母に任せっきり、そのためにユトリロはさびしくて、10代の頃からアルコール中毒に陥ってしまい、孤独な人生の中で絵を描いたことはよく知られています。
 
 今回、展覧会に行って、さらにいろいろと知ることができました。
 
 スュザンヌというのは、ロートレックがつけた愛称だそうです。旧約聖書外典に出て来る老人たちに囲まれた女性の名だそうです。

 スュザンヌはロートレックルノワールやその他、当時の有名な画家たちの絵のモデルだったそうで、とても有名な絵に、なぁるほど、彼女にそっくりな女性が描かれています。ルノワールの「ダンス3部作」のモデルが3作目だけ代わっているのは、ルノワールの奥さんがやきもちを焼いて、それ以上彼女をモデルにできなかったからだそうです。
 
 そして、モデルと画家たちは、恋愛関係になり、彼女はいろいろな男性と恋をしています。でも、彼女の先生であるドガとはそういう噂はなかったみたいです。??ドガが品行方正だったのかな?スュザンヌの好みではなかったのかな??ドガは、スュザンヌのデッサンの力にかなりの賞賛を与えて、絵を指導したのだそうです。
 
 スュザンヌは息子の友達とまで恋に陥り、年配のお金持ちの夫と離婚後結婚をしています。ユトリロは母と友達を一気に失って、この頃からワインによるアルコール漬けの毎日になり、精神疾患を患って、お医者様から治療の一環として絵を描くように言われたのだそうです。
 
 彼のアルコール依存症はひどくなる一方だったそうですが、その頃、麻薬の入ったお酒がはやっていたのに、ユトリロはワインだったから心はズタズタでも身体はズタズタにはならなくて、長生きしているのだそうです。
 
 スュザンヌの絵のなんてたくましいこと。絵の線も色彩もエネルギッシュです。
 
ユトリロの20代の頃の絵はどれも晩秋の枯れ果てたようなパリの風景ばかりです。でも、私は、その頃の絵がとても好きです。丘の上からパリの街を描いている絵もまた枯れた絵なのですが、その色合いがなかなか枯れていていいのです。
 
 その後、ユトリロは、白を基調とした絵、そして、晩年になるにつれては色彩豊かな絵を描きます。以前は白の時代の絵が好きでしたが、今回、晩年の色彩豊かなパリの街の絵がなかなか明るくて愛らしくて素敵だと思いました。
 
 ユトリロはお母さんのようにデッサンはあまり得意ではなかったようですが、色の使い方に彼の心が現われていて、人をひきつける力を持っています。
 
 お母さんは72歳まで生きたのですが、お母さんが亡くなった後、54歳のユトリロのショックはたいへんなものだったそうで、葬儀にも出席できなかったそうです。50歳を過ぎてから、ユトリロは、年上の女性と結婚しているのですが、彼女に支えられてアルコールからも離れ、晩年は絵を描くのに打ち込んだようです。そんなユトリロの晩年の絵の色使いや街行くパリの人々の様子が実にかわいらしい色使いと様子なのです。そんな晩年になっても、なお、母親の死にかなりのショックを受け、ずっと母を求めていたようです。
 
 幼い頃から母を求め、生涯お母さんを求め続けていた人生。そんな中でユトリロの絵が生まれたようです。
 
 お母さんのたくましい人生と息子の孤独に打ちひしがれたような人生。
 
 でも、ふたりとも長生きしています。ユトリロは71歳で没。
 
 ユトリロの若い頃の親友に、モディリアーニがいます。彼は若くしてお酒で命を落としました。その彼を追って、自宅アパートの窓から身を投げた恋人の話も有名です。

 一緒に飲んでいたのが、ユトリロだったそうです。
 
 彼の人生の幸運は、母もそうですが、波乱万丈の人生を送っているとはいえ、若い頃から世に認められて、求められるような画家であり、何やかや言っても、お金には苦労してないようです。晩年の再婚も資産家の未亡人でした。いつも誰かのお世話になっているのです。画商たちからも絵を求められ続けていました。
 
 絵かきさんって、長生きする人が多いそうです。詩人は夭逝の人が多いようです。
 
 絵を描くのは、お医者さんの勧めでもありましたが、ストレスの発散効果があるそうです。そして、いろいろな色を使うことこそ、ストレスが発散されるのだそうです。
 
 私たちの日常生活にもきれいないろいろな色があることがとても大事なのです。
 
 青い海、青い空、白い雲、木々の緑、さまざまな色の美しい花の色。普段着る服も色合い豊かなものがいいのだそうです。
 
 今回、お母さんの絵に惹きつけられて美術館に行きましたが、そして、確かにポスターに載せられていた絵はすばらしい絵でしたが、やっぱりユトリロの絵って、よかったです。特に今回は、若い頃の絵はもちろん、晩年の、色彩豊かな愛らしい絵にも魅力を感じました。冬とはいえ、雪が降っているとはいえ、まるで暖かなパリのお正月っていうような絵もありました。
 
 そして、やっぱり昔のパリのよき時代を感じさせてくれる絵は素敵でした。