雑感 6 ~「閔妃暗殺」~

 
            「閔妃暗殺 ー朝鮮王朝末期の国母ー」
                          角田房子(つのだふさこ)
                          新潮文庫
                           (第一回新潮学芸員受賞作)
                    
                         
 
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 明治時代の日本と朝鮮との関係を、実に詳しく調べ上げて、まとめたノンフィクション小説です。
 
 ちょうど中国では、西太后が政権を握っていたころのことでした。
 
 朝鮮では、閔(みん)氏から王族に嫁ぎ、頼りない王のバックで、政権を握った閔妃(みんぴ)という王妃がいたそうです。
 
 この時代、日本がどうしてあんなにも傲慢に朝鮮を属国と扱おうとしていたのか、そこがなんともひどい話なのだけれど、日清戦争日露戦争も、結局は朝鮮の独立という大義名分を唱えながらも、朝鮮をそれらの国に取られないようにするための戦争だったということのようです。
 
 朝鮮国内でも、閔妃と舅である大院君との間に、お互いを殺し合いかねないほどの確執があり、この二人が実際には政権争いをしていたようでした。
 
 そのために、クーデターが起こるたびに、それに関係した人たちをお互いが皆殺しにし、残虐なことがしばしば起こっていたようです。
 
 閔妃自身も、自分の身を守るために、舅や反乱軍に対しては、徹底的な攻撃を加え、皆殺しを狙っていたようです。
 
 でも、そんな中、閔妃がいたのでは、朝鮮が日本の意のままにならないということで(閔妃はロシアに頼ろうとしていたのです)、他国の王妃を正義を名目に、宮殿に討ち入りし、殺したというのですから、これは尋常ではありません。
 
 舅の大院君を説き伏せ、彼を前面に出し、大院君がクーデターを起こしたかのように装いながらの暗殺計画でした。
 
 当時、朝鮮と関係を持っていた、ロシア、中国、アメリカ、イギリス、フランスなどからは、日本の行為に対して、かなりの非難があったために、日本政府は、一応、関係した者には取り調べを行ったようですが、結局は、大院君クーデターに関わったということで、まったく関係のない朝鮮の人が3人、殺されて、日本人のほうは、何人もの目撃者がいたにもかかわらず、証拠不十分ということで、全員が無罪になったとのことでした。
 
 この事件、他国からかなりの非難を浴び、以後、日本の立場はたいへんな状況にもなっていったようですが、肝心の日本では、閔妃暗殺をよくやったと思っていた庶民が多くいたようで、それが日本での正義だったようです。
 
 また、王妃暗殺を狙った公使、それに加わった警察官なども、自分たちが正義を果たしたという思いを持っていたようです。
 
 今年の8月、9月の朝日新聞の夕刊に、夏目漱石閔妃のお墓参りをした記事が出ていました。
 
 漱石は、閔妃が亡くなった時、最近ありがたいと思ったこととして、王妃が亡くなったことと、正岡子規に手紙を送っていたようです。
 
 閔妃暗殺が他国人である日本人によって行われたということは、尋常なこととは思われませんが、その時の日本では、朝鮮は日本の属国であると思われてもいて、こういったことは、朝鮮正常化の正義だと思われており、一般庶民も当たり前のようにそう思っていたのだろうと思います。
 
 それほど、ロシアに頼る閔妃の存在は、日本にとって、好ましくないものだったんだろうと思われます。
 
 その1年後、漱石は、朝鮮の王様も気の毒なことだということで、朝鮮に旅行した際、閔妃のお墓参りをしているようです。
 
 また、福沢諭吉のことについても触れられていました。
 
 「天は人の上に人を作らず」と言ったという福沢諭吉ですが、今でも韓国の人たちの中には、彼を許せない人物としてとらえている人が多いそうです。
 
 以前、福沢諭吉がお札の肖像になったとき、韓国の人たいの反感を大いに買ったのは、福沢諭吉もまた、当時、当たり前のように、朝鮮を日本の属国として扱うようなことを述べていたからだそうです。
 
 閔妃という女性が、やはりある意味、私利私欲のために、一族中心の政府を作ってきたのでしょうが、他国の王妃を暗殺し、罪が全く問われなかったというのみならず、その後、それに関わった人たちが、出世していたそうで、そのあたり、日本と韓国・北朝鮮との深い深い問題が残り、私たちは、韓流ドラマでなんだか急に韓国との関係を何事もなかったようにいい関係、ですましてはいけないという思いを痛感した本でした。
 
 昔のことにこだわり過ぎる必要はないとはいえ、昔、起こったことは、やはり、きちんと知っておかないと、お互いの関係はわだかまりをどこかに残したままになってしまうのだと思わざるを得ませんでした。
 
 戦争もそうですが、真実は知らないといけないということなんだと思います。
 
 この話、私が好きな李朝白磁が作られた李王朝の末期の時代の話でもあり、その意味でもどんな時代だったのかと思って読んだのですが、当時の政治家に関しては、かなり衝撃的な内容でした。伊藤博文が朝鮮で殺されたというのも、そういう時代背景があったということだったのだということもわかりました。
 
 日本史の教科書では全く習わなかった歴史でした。