酔芙蓉の花です。
朝は真っ白な花が咲き・・・。
陽射しを浴びると
ほんのりピンクに色づいて
夕方には色合いが濃くなり
翌朝にはもう花はしぼんでいます。
まるでお酒に酔ったみたいだと
いうことで、酔芙蓉と
呼ばれているようです。
学名 Hibiscus mutabilis f. versicolor
~純白な花が夢に酔い
艶やかで、儚い命
それが酔芙蓉なのでしょうか~
今年の秋はあっという間に終わってしまいましたが、暑かったからか、10月にはこの酔芙蓉が例年以上に、毎朝いっぱい咲きました。
先週から急に寒くなり、すっかり元気をなくしてしまった酔芙蓉。写真は、10月中旬の、咲き乱れていたころのものです。
この酔芙蓉、おもしろい話があるのを知りました。
石川さゆり 歌
蚊帳の中から花を見る
咲いて儚い 酔芙蓉
若い日の美しい
私を抱いて欲しかった
忍び会う恋 風の盆
咲いて儚い 酔芙蓉
若い日の美しい
私を抱いて欲しかった
忍び会う恋 風の盆
この歌は、元は、高橋治の小説「風の盆恋歌」がNHKやフジテレビでドラマ化され、それにあやかって作られた歌だそうです。
越中おわら節が哀切感のある三味線と胡弓の音色で奏でられる中、町の踊り子たちが一晩中町を練り歩き、踊り明かすのです。それが9月1日から3日まで続き、富山はもちろん、金沢あたりまで、見物客がいっぱい宿泊するのだそうで、この3日間は、各旅館は満員だそうです。
なんとも艶やかな夜。
「風の盆恋歌」は、そんな町を舞台に、学生時代から恋心を持ってきた都築克亮(つづきかつすけ)と中出えり子が、30年ぶりに再会、風の盆に逢瀬(おうせ)を重ね、命を絶つというお話だそうです。
おわら風の盆は、約300年前の元禄のころに始まったとされる、二百十日の暴風を鎮めるお祭りが起源となるそうです。種まきや稲刈り、稲のはさがけといった農作業の身ぶりが取り込まれた素朴な踊りだそうですが、長い年月をかけて磨きがかけられてきたということです。
小説「風の盆恋歌」の「序の章」の最後
「思わぬものが眼に入った」
として、登場するのが酔芙蓉。
『その夜、なかなか寝つけなかった
浅い眠りの中で、都築(つづき)はなん度となく白い花の夢に
悩まされた。
浅い眠りの中で、都築(つづき)はなん度となく白い花の夢に
悩まされた。
散る前にせめて一度は酔いたい、あの酔芙蓉のように…。
ぼんぼりに灯がともり、胡弓の音が流れて、風の盆の夜が更ける時、死の予感に震える男と女が忍 び逢う…。
互いに心を通わせながら離れ離れに二十年の歳月を生きた男女が辿る、あやうい恋の旅路を、金 沢、パリ、八尾を舞台に描く長編。
ぼんぼりに灯がともり、胡弓の音が流れて、風の盆の夜が更ける時、死の予感に震える男と女が忍 び逢う…。
互いに心を通わせながら離れ離れに二十年の歳月を生きた男女が辿る、あやうい恋の旅路を、金 沢、パリ、八尾を舞台に描く長編。
さて、ここからが余談で、おもしろい話なのですが、フジテレビがいよいよこの小説をドラマ化しようとした時(1985年)、ロケ先の八尾では、どこにも肝心の酔芙蓉が咲いていなくて、東京から取り寄せたのだそうです。
越中の雪の深い八尾町では、酔芙蓉を越冬させることも、「風の盆」期間中に花を咲かせることも、むずかしいのだそうです。
それに、酔芙蓉が咲き始めるのも、今年の京都でも9月中旬以降10月中旬でした。普通、自然な状態だと、残暑の残る9月中旬ぐらいから9月下旬ぐらいが花時のようです。
というわけで、ドラマ化されたり、石川さゆりの歌が流行ったために、八尾で、風の盆の期間中に合わせて軒下に咲いている酔芙蓉は、日照時間や温度を管理してわざわざ咲くようにしたものだそうです。
八重咲きのもの、一重咲きのもの、くす玉咲きと言われるものなど、酔芙蓉にもいろいろな種類があるようです。
京都の酔芙蓉も先週にはもうすっかり元気をなくしました。
きょうはハロウィン。残暑ばかりが長くて、短かった秋はもう終わり。
雨のあとは、あっという間に冬に向かいそうです。
起源であるイギリスでは、昔は11月からは冬になったそうで、冬が来る前日に、収穫祭をしたとか。
クリスマス・ツリーやクリスマス・リースの起源になった、ドイツの昔の話もそうですが、昔はハロウィンの時にも、イギリスでは悪霊が出てきやすい時で、それでカブに細工をして(かぼちゃを使ったのは、アメリカに移ってからのようです)、灯をともし、悪霊除けにしたのだそうです。
昔のものの起源を知り、その名残りを味わいながら、そこから生まれたお話を思いつつ、今の季節やその移り行きを感じて、この冬を静かに迎えたいと思います。