きょうのお買いもの 34 ~いかなごのくぎ煮~

 
 
              ~春を呼ぶ いかなごくぎ煮
 
 
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 だいぶ昔の話ですが、7か月も入院したことがありました。
 
 その時、同じお部屋になった2人の女性ととても仲良くなり、入院生活が急に楽しいものになったことがありました。
 
 そのうちのおひとりが、神戸の人で、退院後、毎年、いかなごくぎ煮を作って送ってきてくれました。
 
 そのくぎ煮も、数年後には送られてこなくなりました。亡くなったのです。
 
 この時期になり、くぎ煮が売られているのを見ると、彼女のことを思いだします。
 
 私たち3人は、いつもよく話をしました。土曜日なると、お部屋の他の方は自分の家に帰っていかれるのですが、私たち3人はお許しが出ず、土曜日の夜になるといつも遅くまで語り合ったものです。
 
 年は、私が一番下で、あとは少しずつ上。一番上の人が神戸の人で、あとで知って驚きましたが、母と同い年でした。
 
 もう一人の人は、西陣の帯の問屋さんの奥さん。
 
 土曜日はもちろん、クリスマスの日も3人だけは帰してもらえず、病室の下のお庭にやってきた聖歌隊の歌声を、姉妹のように寄り添って、窓から眺めたこともありました。その様子は、あつかましいながら、まるで昔々の映画「若草物語」のひとコマのようで、うっとりしたぐらいです。
 
 
 年が改まり、新年になって、神戸の彼女が退院できるようになったのですが、その数日前に阪神大震災。そのために、交通手段がなくなり、彼女はおうちに帰れなくなりました。とりあえず、妹の家に落ち着くことにしたとのことでしたが、春になり、神戸に帰れるようになったとき、いかなごくぎ煮を送ってきてきれました。
 
 彼女のくぎ煮はすごく美味しかったです。私はこの時、初めて、神戸の人たちが春を迎える頃に作るくぎ煮というものを知りました。
 
 もう一人の人は、生まれも育ちも京都西陣の人です。いつも人前でも、「おかあちゃん、おかあちゃん」と自分の母親を呼んでおられました。
 
 その方のお母さんは、とても品のある方でした。いつぞや、退院してからのことでしたが、彼女のご一家と一緒に、柚子の里に行き、一緒に柚子のお風呂に入った時、はずかしそうに胸を隠して、「たらちねの母・・・(垂ら乳の母)」とふっと和歌の枕詞を品のいい様子で口にされた時、こんなときに、まあ、なんて教養のある方なんだろうと思いました。まだまだ女性が女学校にもあまり行けなかった時代に、府一という京都では一番名高い女学校を出られたのだそうです。
 
 そのお母さんももう亡くなりました。今でも、そのお母さんからいただいた華やかな大判のハンカチーフは大事に持っています。
 
 その娘さんである、病室友達もとてもおもしろい人でした。
 
 ご主人が毎日来られるのですが、ご主人とは別に彼女を慕っている同級生の男性もまたしばしば来られるのです。
 
 彼女のことがいまだに好きみたいで、うまいことご主人と時間が重ならないように彼女を訪ねて来られるのです。
 
 彼女は、彼とは幼馴染だしということで、夜桜の咲く哲学の道をふたりで手をつないで歩いたこともあるのだそうです。「ええ~~!!」と声をあげる私たち。
 
 だって、夜桜の咲く哲学の道って、照明も何もないから、真っ暗じゃない!
 
 「で、好きなん?」と聞くと、「ううん。私の好きな人は別の人で、高校の時の同級生。今は○○大学の教授したはって、毎日○○大学の前を通って、お店に行くねん。そしたら、桜が咲いた時、ほんとにきれいな道を朝通ってたら、その人が○○大学の窓から覗いたはったんえ~!きゃ~!!」といった具合に話をされるのです(ステロイドをたくさん飲んでいると、やたら元気になるのです)。
 
 「そうしたら、彼からどういうわけか電話がかかってきて、もうびっくりした~」
 
 それで、それで、と聞く私たち(私たちにはステロイドは入ってません)。
 
 こんな感じで土曜日の夜が更けて行きます。
 
 ただ、彼女はその○○大学の教授さんが電話をして来られた途端にす~っと気持ちが醒めてしまったらしい。
 
 なあんやあ~、がっかり。
 
 「それで、今では、△△くんの相手してるねん。」とのことでした。そんなことまったくご存知ないご主人は、毎日お昼ごはんとか晩ごはんの頃になるとやってきて、甘えたように「何にも食べてへんねん」と言って、病院にうれしそうにご飯を食べに来られるのです。彼女はご主人のために、文句を言いながらもうれしそうに、毎日売店で、いろいろ食べ物を買ってはそれをご主人に食べさせ、また、病院で出るおかずもご主人に分けてあげたはりました。
 
 そして、ご主人が帰って行かれると、「入院してるもんの食事、食べるかあ??!」と呆れ顔に言われるのですが、呆れたはるのか、別にそうでもないのか、まだまだ男と女の関係には疎かった私にはよくわかりませんでした。たぶん、今も仲良くされてるんでしょうけど、数年前から連絡はありません。お元気ですように。
 
 さて、今夜は、いかなごくぎ煮を買ったついでに、お魚屋さんでかつおの生節と焼き豆腐の煮物も買いました。
 
 炊きたてのご飯、ほうれん草としめじの胡麻和え、長芋のおつゆと一緒に夕飯にいただきました。
 
 
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